こもりたい人の話

今現在、姉夫婦が家に帰省している。そもそも家がせまいので、元々自分には自分の部屋と呼べるようなものはなく、家の中で区切ると呼べるようなものは、1階と2階の間くらいなものだ。2階を何とか自分のスペースにするとして、1階ではにぎやかな会話が行われており、かつ声も楽しそうな音も全部2階には漏れてくるものだから、たまらない。

 

自分には周りからいじられる気質があるが、その反面、「ここから先には絶対入ってくんな領域」というものがある。

 

普段いる大学の研究室なら問題ない。「基本的には実験の邪魔をしないようにする」「しゃべりたければお茶部屋でする」「ねむければ図書館でなんとかなる」などのいろんな自由が利くのだ。

 

だが、家の中だとどうか。

 

「親戚が家に来ているのだからもてなさなければならない空気」「楽しくしていなければならない空気」「明るく振舞わなければならない空気」「暗い話をしてはいけない空気」「常に話し相手をしていないといけない空気」「特別なご飯でも作らなければならない空気」「どこかに連れて行ってあげなければならない空気」などの様々な空気をひしひしと感じる羽目になる。

普段は気楽にしている母親は、いつもと比べて声が30Hzほど高くなっているし、ちゃんと1階にきてお話をしなさいとか言うし、テレビをみんなで見てるんだから洗い物はするななんて言うし、言われて2階に戻って作業をしているとテレビの音が意外と大きくて作業に集中できない上に「音量下げろ」なんて言えない空気、、、

 

「ここから先には絶対入ってくんな領域」を持つ自分としてはとてもとてもたまらない空間なのだ。

 

自分は、一緒に話そうと思えない人たちと話すことはないし、自分のしたいことを曲げてまで誰かに付き合って時間をつぶしたくもないし、同じ時間を共有しようとも思えない。生来の快楽主義者である自分は、「やりたくないことはやらない」「したいことをする」「気になることを調べる」「気分屋を通す」で生きてきたのだ。そんな人間には、1日の中で必ず半永久と思えるひとりの時間が必要になる。

 

そこに姉夫婦の帰省ときた。だからたまらないのだ。無理やり用事でも作って、別の場所にひきこもりたくなる。自分みたいな集団で生きることに向いていない人間は、これからどんな生活を送るんだろうと、今はまだ気づきたくないこれからの現実に目を背けたままでいる。